エッセイ

『大海を知った蛙』・・・時には“あえて”井の中に戻ると生きやすい【エッセイ 面白い】

地獄谷 ニホンザル

10年以上前、政治の世界で皆の注目を集めた『事業仕分け』というものがあった。
事業仕分けのとあるワンシーンで今でも強く皆の記憶に残っているのが、蓮舫氏の
『世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位じゃダメなんでしょうか?』という名言である。

政治に詳しくない私は、当時も今もこの蓮舫氏の発言が批判されるべきものだったのかすらわからないのだが、私は単純に、“ほほ〜ぅ!そう来たか!”とその名言を政治とは全く別の視点に結び付けて考えを巡らせた記憶がある。

もうかなり昔の話になるのだが、仲の良い友達の妹が、本人のレベルよりもだいぶランクが下の高校に入学し“なぜだろう・・・”と不思議に思ったことがあった。

この子の成績ならもっともっと上の学校に行けるのになぁ。なんて思っていたが、彼女は自分のレベルよりかなりランクの低い学校に入学したことによりさほど努力もせずに常にトップの成績を取り続け、最後は余裕の推薦で大学に進んでいった。

自分のレベルより頑張った高校に入学してしまい、テストのたびに悪戦苦闘していた私は、その時はじめて“そういう手があったのか〜”と納得したのであった。どんなおバカ高校だとしてもその中のトップはトップなのだ。優等生として優遇を受けることになるのである。

この状況、キャバクラ勤務などでも同じではないだろうか。

若くてキラキラしたかわいい子や、到底敵うわけがないレベルの綺麗なお姉様しか在籍していないキャバクラの片隅で、店長からも客からも雑な扱いをうけて自信をなくして小さくなっているくらいなら、自分よりブスな子おばさんお花坊しか在籍していない冴えないキャバクラでナンバーワンに君臨し、店長からも客からもありがたがられ、ちやほやされる方がよほど働きやすいのではないだろうかと思うのだ。(この場合、間違っても次のお店での自己紹介で『前の店ではナンバーワンでした』等の身の程知らずな失言をしてヒンシュクを買うことのないよう注意することだけは必要である)

かくいう私がもっともこのことを身に染みて実感した、とある出来事があった。

ある冬のとても寒い日曜日、私たち夫婦は二人でツーリングに出かけた。特に下調べなどもせず気の向くまま山の方に向かってバイクを走らせ、のんびりした休日を満喫していた。しばらくツーリングを楽しんでいると、町営の温泉施設の看板を見つけた。

体もとても冷えていたし、ここで温泉に浸かって暖まって帰ろうか、という話になり私たち夫婦は駐車場にバイクを停めると、いそいそと温泉施設へと入っていた。

女湯に向かい、脱衣所に入るとそこにいたのは熟女の域を通り越して久しい粒ぞろいの老婆ばかりであった。

ここは普段、本当に地元のお年寄りしか利用しない地域密着の施設なのであろう。彼女たちは通常この場所では見かけることの無い『若め』な私の登場に、物珍しさからか皆こぞって私の全身をなめまわすように上から下まで遠慮なく凝視してくる。

老婆達はすでに「温泉施設の脱衣所で他人の体をそんなにじろじろ眺めるのは失礼」という感覚さえも忘却の彼方へ消え去った様子であった。

日頃、自分の貧相な体に自信のない私は、いつもは温泉施設やラドン温泉の更衣室で着替える時はこそこそと服を脱ぎ、脱衣カゴにしまうと、急いでタオルで前を隠し猫背気味に浴室に向かうのだが、なぜかここにいると、しおれた老婆たちの裸体に比べ著しくハリのある自分の体に妙な自信が涌いてきてしまうのが実感できた。

私は堂々と洋服を脱ぎ去ると、ろくに前も隠さず颯爽と浴室へ向かって歩き出した。

なんなのだろうか、
この優越感は・・・。

タオルで前も隠さないどころか、タオルを頭の上で振り回し「フゥ〜!!」などと奇声を発したい気分だ。

なんなら、このまま全裸でデューク更家のウォーキングでさえ迷いなくやり切れる勢いである。

いや、むしろやらせて欲しい。

そう思うほどだ。
デュ―ク更家 ウォーキング
参考画像:デューク更家

モクモクと湯煙の立ち込める浴室の湯船の中からは、地獄谷の露天風呂に入る野生のニホンザルのように、老婆たちがジーっとこちらを見つめていたが、その日私は(今この世界では)ピチピチである我がボディを惜しみなく見せつけると、ゆっくりと暖かいお湯を堪能し、再びどこも隠さず脱衣所に戻ってきたのであった。

誰もが知っている有名なことわざに「井の中の蛙大海を知らず」というものがある。

このことわざは「小さな井戸の中にいる蛙は、大きな海などの井戸の外にある世界のことを知らない」と言う意味から、自分の狭い知識や考えにとらわれて、他の広い世界のあることを知らないで自慢げにしている様子を言う。

これはとても恥ずかしい様を表すことわざなのだが、逆に一旦井戸の中から出て他の広い世界を知った上で、あえて「井の中」に戻ってくることもまた一つの“自分が生きやすくなる”方法なのではないだろうか。

無理して上の世界に身を置かず、目指すランクを下げた世界に住むことで自信喪失や焦燥感を感じることが減り、生きやすさが格段にアップするという事実は確かに存在しているのである。この世界の誰もかれもが、一流の世界でトップを競い合える戦士ばかりではないのだ。

あの日の町営の温泉施設以来、私は公衆浴場では再び脱衣所でこそこそと服を脱ぎ、厳重に貧相な体を隠し猫背気味に浴室に向かう、といういつものスタイルに戻っているが、こんな私のボディでもきっと80歳の爺さんから見たら鼻血もののピチピチだかんな?という、表に出さないひそかな自信だけは胸に秘め、今日も強く生きている私なのであった。

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こんにちわ!湘南に住む、占い師でエッセイストの冨岡さわこです。(✿✪‿✪。)ノ すれすれの人生、避けて通れないならネタにしよう! わたしを悩ませるあんなこともこんなことも、こんなことも。 現在、中学生と小学生の二人の娘を持つ母です♪ 過敏性腸症候群IBSのおかげで、人生に無駄なピンチが多めに降臨。

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