エッセイ

『守ってあげたい女性』という名の蜃気楼【面白いエッセイ】

10代後半のころと、20代の前半、私は池袋のとあるファッションビルのアパレルショップで働いていた。

お昼休憩などで従業員休憩室に行くと、そこにはギャル系、古着系、お姉さんOL系(当時でいうCanCam系)など、多種多様な女の子たちがいた。

一人で休憩に入った時など、買ってきたランチを食べ終わってコーヒーを飲みながらボーッとしていると、嫌でもまわりの会話が耳に入ってくる。

私がファッションビルで勤務していた数年間、従業員の女の子たちを観察していた中で
総じて言えたことは『遊んでいるのはギャルではなく清楚なOL系の女の子たち』であるということだった。

私の統計では、休憩室では、なにかと彼氏のことで悩んで泣いているのがギャル、眉間にシワを寄せ、鼻の穴からモクモクとタバコの煙を出しながら電話で友人と次の合コンの打ち合わせをしているのが清楚なOL系のファッションに身を包んだ女の子たちだった。

ある日は私が休憩室に行くと、同じフロアのショップで働くド派手なガングロギャルの女の子がわんわん泣いていた。

『どうした?』と声をかけると『付き合ってすぐの彼氏に15万のビトンのカバンをプレゼントしたら直後に振られた』というではないか。

私は『さわこお姉さ〜ん!!!』と泣きじゃくるド派手なギャルの背中をさすりながら
「付き合ってすぐそんなのあげちゃダメだよ・・」と、慰めた。

慰めながら、『そもそもホントに誕生日だったのかよ?その男(怒)!』という疑いが心に浮かぶも、号泣のギャルを目の前に言葉を飲みむしかなかった。

かたやこのギャルの働いているお店の斜め向かいのショップには、色白で細くて華奢で、膝丈スカートとパンプスがとても似合う、男性から見て「守ってあげたい女の子」ってこういうタイプだろうなぁというイメージを再現したような女の子が働いていた。

私はこの「守ってあげたいタイプの女の子」ともよく休憩に行っていたのだが、こちらは“インスタントカメラ現像したら元カレが4人写ってたぁ(笑)”などとあっけらかんとぶちまける小悪魔ちゃんだったのだ。

当時、携帯でキレイな写真など撮れる時代ではなかったので、同年代の女の子は『写るんです』をはじめとするインスタントカメラを持ち歩いている子が多かった。

そのころインスタントカメラは24枚撮りが一般的であったが、その中に4人の彼氏が写っているということは、彼女は彼氏1名につき写真6枚ほどの思い出を残すと、次々に新しい男性に乗りかえていたという計算だ。

またこのファッションビルの受付を担当していた清楚系女子3人組は、3人そろって合コン三昧だったようだが、合コン中に次の合コンの打ち合わせをしていた・・・と、彼女たちとの合コンで相手にされなかった哀れな男性が私の知人に漏らしていた。

まさか、毎日館内放送を気取った声色でおしとやかに読み上げている清楚系3人組が
こんなにも肉食だとは、なかなか男性陣に気づかれることもないだろう。

もはや肉食系を通り越してジビエもいける勢いである。

男性が守ってあげたいタイプと思う女の子ほど、実際は守ってあげなくても大丈夫なタイプであることが多いのである。

そしてなぜかこの事実に、男性は気づけないようにできているのだ。

当時、私の友達の中にも、病院勤務のキレイなお姉さん系の子がいた。彼氏はいたが、自分のお休みと彼氏のお休みが合わない日は、ことあるごとに別の男性をつまみ食いしていた。

そして翌日、彼氏から「昨日なにしてたの?」と聞かれると彼女は「男と遊んでた💛」と正直に言うそうだ。

すると彼氏から「お前はそんなことできる子じゃないだろ💛」と頭をポンポンされる、と言っていた。

なんですって!?

自ら事実をぶちまけているのに!!!
「お前はそんなことできる子じゃないだろ💛」(ポンポン)ですって!!??

できる子ですよ!!
こいつはそんなことできる子ですよ!!!

私は“守ってあげたいタイプ”の恐ろしさに震えながら、
彼女に向かって『このエロ看護婦め・・・!!』とストレートな感想をぶつけるのが精一杯であった。

しかし『男と遊んでた』と自白までしても本性がバレないとは・・・

ここまでくると、はたからみている私の心境としては、自分にだけ幽霊が見えていて
“ここに幽霊がいます!!!!!”と激しく訴えているにもかかわらず、“幽霊なんてどこにいるのさ”と誰にも相手にされず、一人でアワアワしている人の気分に近いものがある。

そして世の中にはびこるあざとい女性に、男性達は気づけないシステムになっているというこの大きな現実は、世間の大半の女性陣から賛同をもらえるのではないかと思っている。

先日、この話をうちの主人にしてみたところ、主人は『俺はそういうのすぐ気づけるタイプ』などと自信たっぷりに豪語していた。

そのため『それじゃ、もし土屋太鳳ちゃんがめちゃくちゃ遊び人だったら気づける?そう見えないでしょ?』と非常に初歩的な質問を投げかけてみた。

すると主人は『太鳳ちゃんは絶対そういう子じゃないでしょ!』と言うではないか。

ハイハイ、
出ました!!

出ましたよ〜!
ʅ( ‾⊖◝)ʃ

まったく何が『俺はそういうのすぐ気づけるタイプ』だ。
笑わせてくれるじゃないか。
こんな初級編にあっさり引っかかるようでは先が思いやられる。

私は溜息まじりに
『太鳳ちゃんはやるよ』と言い捨てた。

主人『いや、太鳳ちゃんは絶対いい子だよ!』

『だから、太鳳ちゃんはやるよ』

主人『太鳳ちゃんはやらないよ!』

『太鳳ちゃんはやるよ』

主人『やらないよ!』

『やるよ』・・・

私たち夫婦は、土屋太鳳ちゃんサイドから訴えられそうな不毛なやり取りをしばらく繰り返し、会話は終了した。

実際のところの土屋太鳳ちゃんがどんな子であるかは一般人の私などに知る由もないのだが、彼女のように清楚な見た目で、何も企んでいなそうな女子が実は男性を手玉にとり、そこらのギャルなんかより数倍あざといというパターンが非常に多いことは経験上、紛れもない事実なのである。

この話をするとき、いつも思いだすのが『流氷の天使』と呼ばれるクリオネの捕食シーンだ。そのキャッチコピー通り、かわいらしい天使のような姿で泳ぐクリオネだが、捕食のときになると突然悪魔のように変身する。

その姿が私の中では清楚系あざとい女子たちとかぶるのだ。

クリオネ 捕食 怖い

餌が近づくと、それまで天使の姿でホヨ~ホヨ~っと漂っていたクリオネの頭が突然、大きくパッカリと割れ、そこからニュルニュルっと6本もの触手が飛び出します。そして餌をガツっと捕獲。ジタバタするのも構わず、ゆっくりと餌の養分を吸収して食べるのです。6本の触手を伸ばして食事をする様子はまるでアニメの「殺せんせい」。はっきり言って怖いの一言です。
参考:暮らしーの《流氷の天使「クリオネ」が見せる衝撃の捕食シーンとは?!これは怖すぎ!》

しかしながら、この事実を“清楚でない私”などがキャンキャンと訴えかえたところで負け犬の遠吠えでしかない。

ここまで延々と語ってはみたが実際のところ『守ってあげたい女性』という名の蜃気楼のために、男性たちは頑張るのだ。

世の中はそんなふうにできている。
きっとそれでいいんだ。

長い年月をかけ、ようやくそんな風に悟りを開きはじめた今日このごろである。

そして私も生まれ変わったら、土屋太鳳ちゃんみたいな清楚な天真爛漫系になって男性陣を手玉にとってみたい・・・などと切に願っていることは、くれぐれも心の中にしまっておくことにしようと思う。

ABOUT ME
富岡紗和子
神奈川県湘南在住、占い師(帝王命術売占い鑑定師・四柱推命鑑定師)ラジオパーソナリティ・エッセイ作家・法人役員(役員暦24年)の富岡紗和子です。 現在、二人の娘を持つ母でありサーフィンとビールをこよなく愛するアラフィフ女子です♪ ⇒ ⇒ 詳しいプロフィールはこちら

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