おもしろ

“女王様育成”のプロ ラテンの男・エドワルド

私がよく行く大型スーパーに、以前エドワルドという男性店員がいた。
彼はラテン系アメリカ人で、アメリカで日本人の女性と出会って結婚し日本に移り住んでいるということだった。

一度、私が探していた商品がどうしても自分で見つけられず、売り場で品出し作業をしていたエドワルドに声をかけて一緒に探してもらったことがあり、それ以来、買い物に行くたびにエドワルドは私に話かけてくるようになった。

彼は浅黒いお肌にスキンヘッドのコワモテといういでたちで、『絶対に日本語を話せない外人』というオーラを全開に放っていたが、その濃ゆい顔とは裏腹に、イントネーションに若干のクセはあるものの、日本語がペラペラであった。

そしてそもそもアメリカ人なのだから当然ではあるのだが、日本語の会話のところどころに混ざる英語の発音があまりにもネイティブで素晴らしいため、私は毎回、彼の話に英単語が混じるのを期待して会話していた。

エドワルドが「店長は今ビケイション(vacation)だから・・・」とか
「ベイキャリー(Bakery)の担当の人がね・・」などと話す英単語を聞いては

私は「へぇ〜店長さんビケイションなんだね?」「ほほぅ。ベイキャリーの人が!?」などと無駄に本場の発音を真似して繰り返しては、感動していた。

エドワルドはもうだいぶ長く日本に住んではいたものの、日本の文化についてまだ全て把握しているわけではないらしく、日本の風習やしきたりについて度々質問をしてきた。

そんなこと奥様に聞いたらいいのでは?とも思うのだが、家に帰っても奥様は口もきいてくれず誰かとずっとラインしてる・・・と毎回言っていた。

そのころエドワルドは車を持っていなかったため、かなり遠方からこのスーパーにバイク通勤していたのだが、ある日の仕事帰り、信号待ちをしているところに旧車會(きゅうしゃかい)のメンバーが大勢やってきて、エドワルドを取り囲むように一斉にエンジンをふかしはじめたそうだ。

旧車會(きゅうしゃかい)とは、旧車と呼ばれる古いオートバイを入手して昔の暴走族を模した改造を施し、コールと呼ばれるエンジンを高回転でリズミカルに空ぶかしさせる行為や、ミュージックホーンと呼ばれるラッパを鳴らしながら集団走行などを行う団体。
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

※旧車會というと私の中では『信号を守る大人の暴走族』という位置づけで理解しているが、旧車會の定義には諸説あるようだ。

今まで日本の暴走族や旧車會(きゅうしゃかい)など、爆音を鳴らすバイク集団などの文化に直接触れたことがなかったエドワルドは、自分の周りを囲み一斉にエンジンの空ぶかしを始めた爆音集団に驚き、慌てふためいた末、何を血迷ったのか、こともあろうに慌てて自分も負けじとエンジンをブンブンブンブンと空ぶかししたというのだ。

日本人なら絶対にやらないであろう、不意にそのような集団に包囲された際の“間違った対応”である。

突然、仲間以外のバイクが一緒にエンジンをふかし始めたことに気が付いた旧車會のメンバーたちは『なんだこの野郎』的な雰囲気になり、エドワルドを凝視し始めたそうだ。

全く状況を理解できないエドワルドは、とりあえずヘルメットのシールドを上げると、右手の親指を立てて、旧車會のメンバーたちにキメ顔で“Good!!”と合図を送ったそうである

すると彼らは『なんだ外人か・・・』と一斉にトーンダウンし、信号が変わると同時に走り去ったということであった。

「あれ何、ウルサイね(汗)」と肩をすくめて話すエドワルドに私は「それ絶対に、一緒にブンブンしちゃだめなやつだから!!!」と爆笑した。

余談だが私は、日本人というのは日本にいる外国人にとても親切であると常々感じていたのだが、この件で、旧車會のように爆音を出してバイクで疾走する集団のメンバーでさえ、外国人には優しいんだな・・・ということを改めて実感したのであった。

と、まあ明るいエドワルドだったのだが、少しその陽気な性格が行き過ぎてしまうことがあった。

ある日、私がカートを押していつも通り買い物をしていると、突然どこからともなく『なとりのおつまみ詰め合わせ』の袋が上空から飛んできて、ガシャン!!と私のカートにINしたため私は驚いて飛び上がった。

慌てて振り向くとエドワルドがまじめな表情で立っている。そして紳士的な雰囲気で近づいてくると『お客様、申し訳アリマセン。この店では、たまにこのようなことが起きマス』と言い残すと、私のカートから『なとりのおつまみ詰め合わせ』を取り出すと去って行った。

南の島のお調子者店員くらいならやりかねないイタズラだが、日本のスーパーでは絶対に上司に見つかってはいけないハシャギ方だ・・・。

あービックリした・・・
あいつめ・・・
と危険なお調子者の後姿を見ながら、私は動悸の治まらない心臓をなでおろしたのであった。

そんなエドワルド、以前からどうも日本人の奥様とはうまくいっていないという話を何度もしていたが、ついに本当に離婚する運びとなったようだ。

確かに奥様は口もきいてくれないと言っていたが、そうはいっても本当は仲良しなんじゃないか?と奥様の愚痴を話半分に聞いていた私は『え?ほんとに離婚したの?』と正直意外であった。

奥様とお別れしたエドワルドは、何かの足かせが外れ本来の姿に戻ったのか、みるみるうちに女の子大好きテンションが全開になっていった。

バーなどで会った女性とそのまま仲良くなり、お付き合いしたりしていたようだが、どうやら彼はお付き合いする女性を甘やかしすぎて、女王様に育て上げてしまう癖があるようだった。

前回聞いた話までではとても優しかったはずの彼女が、短期間で女王様と化し、振り回されて捨てられたというパターンの話を何度か聞かされ、私は

『あれ?この人、もしかして女王様育成のプロなのでは・・』と、うすうす感じ始めた。

一体どう接したらそうなるんだろう?と疑問に感じ、軽く話を聞いてみると、エドワルドは『彼女がお風呂からでたら拭いてあげる。なんでもやってあげる』などと言っていた。

私が思わず「そんなことまでやってあげちゃうから女王様になっちゃうんじゃん・・」と指摘すると、エドワルドは何故か誇らしげに
『俺にはラーティン(ラテン)の血が流れているからね』と言い放った。

私は喉元まで出かかった『勝手にせい』という言葉をなんとか飲み込むと、『ラーティン・・・』と良い発音で無意味にリピートした。

その後もエドワルドとは、何かと立ち話をしていた。

彼が念願の軽自動車を手に入れた時には、中古車屋さんで軽自動車に肘をかけキメポーズをしている写メを見せられたり、漢字が読めないため“自動車点検のご案内”のハガキをポケットから出し『なんて書いてる?』と相談されたり、なんだかんだとたわいのない会話をしていた。

そんなある日のこと。

いつも通りに買い物に現れた私を見つけるとエドワルドが近付いてきた。

そして何のスイッチが入ったのか突然お菓子売り場で私の手を握ると、じっと目をみつめ
『僕たちの間に、特別な気持ちはある・・・?』と問いかけてきたのである。

突然のことに、私は驚き、

『・・ない。』
と簡潔に答えるのが精一杯であった。

私が二児の母であることを知りながら、こんなにも唐突に果敢にそして情熱的に攻め込んでくるラテンの男エドワルド・・

バーで出会った女の子から逆ナンされた女子その他もろもろ、そしてただの勤務先スーパーの客である子持ち一般人主婦の私にまで、、まさに手当たり次第ではないか。

あんた、
なんて手広いんだ!

手広いにもほどがある。こんなに手広い人を目の前にしながら、動揺のあまりいつもならわりとすぐ浮かぶ的確はツッコミすら浮かんで来ない。

手広い人、手広い人・・・あっ!美空ひばりからAKBまで手掛ける手広い代表・・・
「秋元康か!」

いやなにか違うぞ・・えーっと、他に手広い人、手広い人・・・(モゴモゴ)

その時の私は、おそらく白目の真ん中の黒目が異常に小さくなり
鳩のような表情になっていたに違いない。

恐るべし・・・
情熱のラーティン!
(本場の発音でどうぞ)

それからしばらくすると、スーパーでエドワルドの姿を見ることがめっきりなくなった。
私は特に気にすることなくいつも通り買い物に訪れていたのだが、あんなに毎回声をかけてきていたエドワルドをまったく見なくなって数か月後、なんとなく他の店員さんに『そういえばエドワルド最近いないの?』と聞いてみると、『あ、彼、辞めちゃったんだよ』と教えてくれた。

彼が自ら何らかの都合でやめたのか、それとも『なとりのおつまみ詰め合わせ』をお客さんのカートに投げ込んでいるのを店長に目撃でもされたのか、はたまたラーティン(ラテン)の血が騒ぎ、どこぞの奥様を口説いて問題を起こしてしまったのかは知らないが、彼が私の日常生活にしばらくの間、結構なインパクトを残した面白人物として刻まれたことは間違いない。

そして彼が、ラーティン(ラテン)の血が流れているがゆえ、毎度女の子を女王様に育成してしまうのか、それともエドワルドはエドワルドであるがゆえ、女王様を育成してしまうのかという部分に関しては、既婚子持ちの私が自らの身をもってその女王様育成プロセスを体験するわけにもいかず、今や検証するすべも無く迷宮入りとなってしまった。その事実だけが今唯一、心残りな私なのであった。

 

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こんにちわ!sawachinです(✿✪‿✪。)ノ すれすれの人生、避けて通れないならネタにしよう! わたしを悩ませるあんなこともこんなことも、こんなことも。 7歳9歳の娘の子育てと仕事の両立に奮闘中! 過敏性腸症候群IBSのおかげで、人生に無駄なピンチが多めに降臨。